日立が打ち出す1兆円規模の未来投資
日立製作所は、次世代技術の開発に向けて、今後3年間で総額1兆円を投資する方針を打ち出しました。徳永俊昭社長は、「構造改革に終わりはない」と明言し、電池・バイオ医薬品といった製造業の自動化領域におけるM&Aを視野に入れています。また、量子コンピューターや航空機の電動化、がん治療技術など、未来社会の中核を担う分野において、研究開発投資を一層加速させる構えです。
人的投資と「ルマーダ」によるデジタル戦略
人的投資にも余念がなく、若手人材や海外研究者の登用を積極的に進めることで、グローバル技術競争に対する競争力強化を図っています。
特筆すべきは、デジタル基盤「ルマーダ」への3000億円規模の投資です。これは、単なるシステム導入に留まらず、運用・保守を含めた包括的な収益モデルへと進化しており、すでにシンガポールの鉄道事業者と連携した電力削減の収益化実証も進行中です。同取り組みは、他分野への水平展開において重要なモデルケースとなる可能性を秘めています。
縦割り組織から統合経営への転換
一方で、これまでの課題として挙げられてきた縦割り体制の弊害──情報共有の遅延や連携不足──に対しては、全社横断型のデジタル戦略会議体を新設。グループの総合力を結集することで、真の統合経営に向けた土台整備が進められています。
AIやクラウドで先行する欧米勢と差別化を図るには、日本企業ならではの“現場力”や“品質へのこだわり”といった知見を生成AIへ学習させ、それらを競争優位の源泉に変えることが求められます。徳永社長の強調する“技術と現場の融合”は、その象徴的な戦略といえます。
企業体質と財務構造の変化
財務の観点から見ても、日立の体質は着実に改善しています。企業力総合評価は緩やかな上昇傾向にあり、直近期では134ポイントと、改善の途上ながら前進が続いています。
営業効率については、2020年に一時的な悪化が見られたものの、翌期以降は総利益率の改善を伴って回復基調に転じました。
生産効率と人的資本の最適化
生産効率においては、従業員数の削減が進む一方で、他社と比較してデジタル人材の比率が高く、1人あたり売上高などの指標において効率性の向上が確認されています。今後は、海外からの高度人材獲得も視野に入れ、さらなる生産性向上が期待されます。
資産効率と健全な財務体質の構築
また、財務諸表の構造にも注目すべき変化が表れています。貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)で見られる、総資産と売上高の連動性は、資産効率に対する強い経営意識を示すものです。純資産(緑)の着実な増加、固定負債(ピンク)の縮小といった推移からも、財務の健全性と投資余力が着実に積み上げられていることが読み取れます。
構造改革の歩みと“未来への助走”
総資産17兆円規模というスケールの中にあって、1兆円の戦略投資は“無謀”ではなく、むしろ“必然”ともいえる打ち手です。
私は、2010年の川村隆社長(当時)による構造改革の時代から、日立の変遷を見守ってきました。歴代経営陣によるバトンリレーは、単なる継承にとどまらず、確かな意思を持った改革の連続でした。その延長線上にある今回の1兆円投資は、過去の延長ではなく、未来への本格的な助走である──そう強く感じています。
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