日経ニュースで話題の企業を財務分析

トヨタが日野を切った日──脱炭素時代の“計数戦略”の裏側

Facebook
X
Email
Print
目次

日野と三菱ふそうの統合に込められた脱炭素への危機感

トヨタとダイムラーが、傘下の日野自動車と三菱ふそうの経営統合で最終合意した背景には、脱炭素への強い危機感がある。商用車業界では、環境対応のスピードが生死を分ける時代に突入している。欧州連合(EU)は2030年にCO₂排出量を2019年比で45%削減、2040年には90%削減という厳格な目標を掲げ、未達成の場合には罰金という重いペナルティを科す。世界市場で生き残るには、もはや猶予はない。

日野自の不正問題と次世代車開発の困難

一方で、2022年に発覚した日野自の排ガスと燃費試験不正の影響は今なお尾を引く。いまだ一部エンジンの型式指定は再取得できず、2024年5月には一部車種の出荷再開も断念した。排ガス規制対応に苦慮する中、EVやFCVなど次世代車への開発投資も単独では困難。トヨタ自身も「支えることに限界がある」と認めている。

日野自の業績悪化と財務指標の変化

さらに財務面から見れば、日野の苦境は数字にも表れている。企業力総合評価は右肩下がりで2024年には黄信号に突入。営業効率は2021年に赤色ゾーン入りし、翌期に一時持ち直したものの、2023年以降は再び悪化。売上高総利益率(オレンジ)や売上高販管比率(黄)も2020年以降、9年連続で下落トレンドにあり、減収減益傾向が鮮明だ。それでも従業員数は維持されたままで、コスト構造の改革は進んでいない。

バランスシートから見る経営の実態とトヨタの戦略

バランスシート上では堅実な経営姿勢もうかがえるが、純資産(緑)はじわじわと減少に転じており、内部留保を減らしている。
こうした中で、今回の統合により日野はトヨタの持分法適用から外れる。これは日野への一定の救済措置であると同時に、トヨタグループ本体の財務健全性を守る計数戦略としても非常に巧妙である。

新会社設立と次世代技術実用化への挑戦

そして、日野と三菱ふそうが統合して生まれる新会社は2026年4月に上場予定だ。欧州・中国・米国の新興勢力が競り合う中で、限られた時間内にいかに次世代技術を実用化できるか。再編に込めた日欧連合の決断は、まさに背水の陣であり、その成否は業界全体の未来をも左右する。

250611日野自動車企業力総合評価・営業効率財務指標数値・生産効率財務指標数値・BSバランス
Facebook
X
Email
Print
山本 純子
山本 純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。 多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
山本 純子
山本 純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。 多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
関連記事

ニデックの決算に走った衝撃 成長の代償——ニデック“監査意見不表明”に潜む財務の真実 ニデックに走った衝撃——。2025年3月期決算で、監査法人から「監査意見不表明」という極めて異例な判断が下された。信頼こそが命の上場企 […]

日本特殊陶業、デンソーから事業買収で世界シェア6割へ 2025年9月、日本特殊陶業がデンソーからスパークプラグおよび排ガス用センサー事業を1806億円で買収することに正式合意。この一手により、自動車プラグ分野で世界シェア […]

富士通とNVIDIAの戦略提携は歴史的な一手 「AIで駆動する社会の実現」へ――富士通が米NVIDIAとの戦略提携を発表したこのニュースは、単なる技術提携ではありません。これは、日本企業が世界のAI競争の最前線へと踏み出 […]

2025年、日本企業を襲う「早期退職1万人超」の衝撃 2025年、日本企業に異変が起きています。 早期退職者がすでに1万人を突破。 この数字、何を意味しているのでしょうか? 特に製造業で目立つのが、管理職世代の大量削減。 […]